先日、父が亡くなりました。
法定相続人は母と私と妹です。
ところが母は認知症を患っています。
母を抜きにして遺産分割協議はできないでしょうか。
認知症患者が法定相続人に含まれる場合、遺産分割協議をすることはできるのでしょうか。
結論から申し上げると、相続人に認知症患者がいる場合、遺産分割協議をすることはできません。
認知症の相続がいる状況で作成した遺産分割協議書は無効となります。
では相続人に認知症患者がいる場合、遺産分割はどのようにしたら良いのでしょうか。
この記事では、相続人に認知症患者がいて困っているあなたのために、成年後見人制度というものを紹介しています。
成年後見人制度とは何かということだけでなく、成年後見人制度を使用するデメリットについても解説しています。
きっと相続人に認知症がいる人の助けになるでしょう。
もくじ
1.相続人に認知症の方がいる場合:遺産分割協議には成年後見人制度を使う必要がある
相続人に認知症患者がいる場合、遺産分割協議をするためには成年後見人制度を使う必要があります。
成年後見人制度とは一体何なのか解説していきます。
1-1.成年後見人制度は判断能力が不十分な人の財産を後見人が守るための制度
成年後見人制度は、認知症や知的障害・精神障害などにより判断能力が十分ではないとされる方の財産を守るための制度です。
例えば、判断能力が不十分な方が、何らかの契約を結ぶ際に、十分な判断ができず、不利な契約を悪意のある人から結ばされてしまうことがあるかもしれません。
遺産分割協議においても自分で行うことが困難であるかもしれません。
成年後見人制度は、家庭裁判所によって選ばれた後見人が、認知症などで判断能力が不十分な方の財産を守るために、本人に代わって法的な契約などをするための制度です。
後見人は、本人のためにどのような支援が必要なのかという事情に応じて家庭裁判所が選任します。
後見人として選任されるのは親族であったり、第3者の専門家であったりします。
法定相続人の中に認知症の方がいる場合、遺産分割協議をするためには、認知症の方の財産を守るという観点から、成年後見人制度を使用しなければなりません。
認知症の相続人がいるにも関わらず成年後見人制度を使用せずに作成された遺産分割協議書は無効となってしまいます。
遺産分割協議が目的の場合、後見人は第3者である専門家が選ばれることが多いです。
なお、一度選ばれた後見人は変えることができません。
1-2.成年後見人制度を使う方法
相続人の中の一人が認知症の場合、成年後見人制度を使わないと遺産分割協議ができなんだね。
それでは成年後見人制度を使うにはどうしたら良いのか知りたいな。
相続人に認知症患者がいる場合、遺産分割協議には成年後見人制度を使う必要があることがおわかりいただけたでしょう。
これから成年後見人制度を使う方法を解説していきます。
1-2-1.管轄の家庭裁判所を確認する
まず一番初めにすることと言えば、管轄の家庭裁判所がどこなのか確認することです。
管轄の家庭裁判所は、認知症患者である方の住所地から一番近い家庭裁判所になることが多いです。
管轄の家庭裁判所のHPを確認しましょう。
ついでに、その家庭裁判所のHPから、申立書類一式を取得できるかどうかも確認しておきましょう。
後ほど説明する、申し立てに必要な書類の中に含まれます。
1-2-2.申し立てに必要な書類を集める
申し立てに必要な書類を集めます。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 後見登記されていないことの証明書
- 申立書類一式(家庭裁判所から入手)
- 本人に関する資料
- 認知症の症状がわかる診断書
必要な書類が多くて大変ですが、丁寧に解説していくので安心してついてきてください。
後見登記されていないことの証明書
後見登記されていないことの証明書は、現時点ではまだ後見登記はしていないことを証明するための書類です。
法務局の本局からのみ取得可能です。
法務局の支局や出張所では取り扱っていないので注意してください。
法務局の本局に直接出向くことができない場合、郵送してもらうことになりますが、その場合は東京法務局に請求することになります。
- 後見登記されていないことの証明書は法務局本局から取得する
- 支局や出張所では取り扱っていない
- 郵送してもらう場合は東京法務局に請求する
申立書類一式
申立書類一式は家庭裁判所から入手してください。
管轄の家庭裁判所のHPからダウンロードすることができます。
管轄の家庭裁判所のHPからダウンロードできない場合は、家庭裁判所の窓口で受け取るか、郵送の請求をしましょう。
- 申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支状況報告書
- 後見人候補者事情説明書
- 親族の同意書
書類が多いですが、全て家庭裁判所から入手できます。
家庭裁判所のHPに記入例があるはずですので、記入例を参考に書類を作成してください。
わからないことがあれば家庭裁判所に問い合わせてみましょう。
本人に関する資料
本人に関する資料は、認知症の方の健康状態、財産、収支を証明するために必要な書類です。
健康状態を証明する資料としては、介護保険認定書や障害者手帳などが該当します。
財産・収支を証明する資料としては、収入に関する資料と支出に関する資料が必要です。
収入に関する資料としては、年金額決定通知書や確定申告書・給与明細が該当します。
支出に関する資料としては、納税通知書、保険料決定通知書や家賃・医療費などの請求書または領収書が該当します。
認知症の症状がわかる診断書
認知症の症状がわかる診断書を医師に書いてもらってください。
認知症の方の判断能力を判定するのに必要となります。
1-2-3.申し立てに必要な費用
申立費用として、800円の収入印紙代が必要になります。
また、予納郵便切手として3200円〜3500円、登記費用として2600円必要になります。
申し立てするのに合計6000円ほどかかることになります。
また後ほど成年後見人制度のデメリットとして説明しますが、後見人として弁護士などの第3者が選任される場合、後見人に対して報酬が発生します。
1-2-4.面接日程を予約する
申し立て後に申立人から詳しく事情を聞くために家庭裁判所で面接をすることになります。
面接日程の予約は1カ月ほど先でないと予約が取れないことがあるので、早めに予約をとっておきましょう。
ただし予約した日程の1週間前までには申立書類一式を家庭裁判所に提出しなければいけないので、早め早めの行動を心がけましょう。
- 1カ月先でないと予約が取れないこともあるため早めに予約をとっておく
- 予約した日程の1週間前までには申立書類一式を家庭裁判所に提出する
1-2-5.審理される
申立人との面接や、認知症の方本人との面接、後見人候補者との面接を通して、また、提出された資料を通して、家庭裁判所が審理をします。
審理によって認められると、成年後見人制度を使用することができるようになります。
2.成年後見人制度には3つのデメリットがある
ここまで成年後見人制度についての解説と成年後見人制度を使うための申し立て方法を解説していきました。
成年後見人制度を使えば、相続人の中に認知症患者の方がいても、遺産分割に関しては万事解決かと言いますと、そういうわけではありません。
成年後見人制度には使用するデメリットがあります。
ここからは、成年後見人制度のデメリットについて解説していきます。
2-1.成年後見人制度を使っても自由に遺産分割はできない
成年後見人制度を使ったところで、自由に遺産分割できるようにはなりません。
成年後見人制度の趣旨はあくまでも判断能力が不十分な方の財産を保護することです。
遺産分割協議においても、後見人は法定相続分の遺産は認知症の方が相続する分として要求してきます。
2-2.認知症の方が生きている間、後見人に対する報酬が発生する
一度、成年後見人制度を使うと、認知症の方が生きている間、後見人に対する報酬が発生し続けます。
正確には、認知症の症状が完治るまでですが、現代の医学では認知症の完治はありえないと考えていた方が良いでしょう。
後見人は途中で交代させることは簡単にはできませんので、弁護士などの第3者が後見人に選任された場合、認知症の方が亡くなるまでの間、報酬を払い続けることになります。
2-3.成年後見人制度を使うと本人の財産は本人のためにしか使えなくなる
成年後見人制度を使うと、認知症の方の財産は本人のためにしか使うことができなくなります。
認知症の方の財産を、その子どもが下ろして使うと、通常、罪に問われることは滅多にありませんが、成年後見人制度を使っている場合、親族と言えども業務上横領罪になります。
お金の貸し借りもできなくなります。
3.まとめ:成年後見人制度を使うのかはよく検討する
法定相続人の中に認知症の方がいた時に、遺産分割協議をする方法として成年後見人制度を用いることを紹介しました。
現状の法律では、後見人制度を用いなければ、法定相続人の中に認知症の方がいるときに遺産分割協議をすることができません。
ここで考えて欲しいことは成年後見人制度を使用してまで遺産分割協議をする必要があるのかということです。
成年後見人制度にもデメリットがあります。
- 成年後見人制度を使っても自由に遺産分割はできない
- 認知症の方が生きている間、後見人に対する報酬が発生する
- 成年後見人制度を使うと本人の財産は本人のためにしか使えなくなる
これらのデメリットがあったとしても、遺産分割協議をした方が良い理由があるのであれば、成年後見人制度を利用してください。
もし、成年後見人制度を使用してまで遺産分割協議をするメリットがないのであれば、あえて遺産分割はせず、法定相続分で遺産を分けましょう。
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