老後の資産を形成する手段として、iDeCoやつみ たてNISAの活用を促す動きが強まっています。
もしかすると、今この記事を見ているあなたは、
「老後に向けてiDeCoに加入しよう」
ということを考えているのではないでしょうか。
ところで、総務省の労働力調査によると、転職者数は年々増えていて、2019年には過去最多の351万人が転職をしています。
転職をすることは珍しいことではなくなってきています。
このような背景から、これからiDeCoに加入しようと考えているなら、「もし転職したらどうなるのか」ということも考えておく必要があるでしょう。
この記事では、
「iDeCoに加入している人が転職するとどうなるの?」
「企業型確定拠出年金のある会社で働いていたが、転職するから新しくiDeCoに加入したい」
といったことを考えている方に向けて、iDeCoと転職に関することを解説します。
具体的には、
「iDeCoに加入している方が転職する場合」
「企業型確定拠出年金に加入している方が転職する場合」
それぞれについて解説します。
将来の不安を少しでも解消していただければ幸いです。
もくじ
1.iDeCoに加入している人が転職する場合
まず、iDeCoに加入している人が転職する場合について見ていきましょう。
1-1.企業年金制度がない会社に転職する場合
企業年金制度がない会社に転職する場合は「掛け金の積み立てを継続する」か「掛け金の積み立てをやめて運用指図者になる」のかを選ぶことになります。
1-1-1.iDeCoの掛け金積み立てを継続する
企業年金制度のない会社に転職する場合は、今まで通り掛け金の積み立てを継続することができます。
ただし、手続きとして運営管理機関に「加入者登録事業所変更届」と転職先の「事業主証明書」を提出する必要があります。
また、自営業からサラリーマンへ転職した場合は、「加入者被保険者種別変更届」を提出したり、掛け金の上限が変わってしまうことによって、毎月の拠出額を変更する場合は、運営管理機関に提出する「加入者登録事業所変更届」にそのことを記入したりしなければいけません。
ちなみに、企業年金がない会社員の上限額は月2.3万円となっているので、転職前にそれ以上の金額を拠出していた方は、拠出額を変更する必要があります。
国民年金の被保険者種別、又は登録事業所の変更の手続きが必要です。
第1号加入者又は第3号加入者の方が厚生年金の適用事業所に就職した場合は、国民年金の種別が第1号被保険者又は第3号被保険者から第2号被保険者に変わりますので、「加入者被保険者種別変更届(第2号被保険者用) (K-010B) 」に、就職(転職)先が記入した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書 (K-101A)」を添付して、運営管理機関にご提出ください。
第2号加入者の方が厚生年金の適用事業所に転職した場合は、「加入者登録事業所変更届 (K-011)」に、転職先が記入した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書 (K-101A)」を添付して、運営管理機関にご提出ください。
引用:iDeCo公式サイト
1-1-2.iDeCoの掛け金積み立てをやめて運用指図者になる
掛け金の積み立てをやめて運用指図者になることもできます。
運用指図者になると、追加で拠出することはできなくなってしまいますが、すでに積み立てた資産の範囲で運用を続けることは可能となります。
止むを得ない事情で拠出が不可能になった場合、拠出をやめて運用指図者になると良いでしょう。
ただし、デメリットもあります。
運用指図者になった場合のデメリットについては、後ほど詳しく解説します。
1-2.企業年金制度がある会社に転職する場合
企業年金制度がある会社に転職する場合は、いくつかのパターンに別れるので注意が必要です。
1-2-1.転職先の企業型確定拠出年金へ移換する
転職先の会社に「企業型確定拠出年金」がある場合は、移換手続きをしましょう。
「移換」とは、iDeCoで積み立てた自分の資産を別の運営管理機関に移し換えることです。
手続きの方法は、新規加入の手続きと基本的に同じです。
まず、移換前の運営管理機関に対するiDeCoの資格喪失手続きを行いましょう。
そして、移換先の運営管理機関に「運営管理機関変更届」などの書類を提出しましょう。
移換する場合は、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者の資格を喪失することになりますので、速やかに「加入者資格喪失届 (K-015)」に、加入者の資格を喪失した理由及び喪失年月日を証明する書類を添付して、運営管理機関にご提出ください。 この場合、個人型確定拠出年金の資産を就職(転職)先の企業型確定拠出年金に移すことができます。詳細な手続きは、就職(転職)先の人事・労務等のご担当の方にご確認ください。
引用:iDeCo公式サイト
このとき、注意しなければいけないポイントがあります。
iDeCoの資格喪失手続きを忘れると、本来必要のない費用を負担させられてしまいます。
一体どういうことなのか詳しく解説します。
転職先の企業型確定拠出年金の加入者になってiDeCoの加入資格を失っているにも関わらず、iDeCoの加入資格喪失の手続きが遅れてしまうと、その間にもiDeCoに掛け金が拠出されてしまいます。
加入資格がない期間の掛け金は、後に全額払い戻し(還付)されます。
この際、還付手数料として、国民年金基金連合会に1,048円、事務委託先金融機関(信託銀行)に440円、それぞれ還付される金額から差し引かれる形で支払わなければいけません。
たかだか1,488円と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、手続きを忘れなければ本来引かれずに済むお金ですので、iDeCoから企業型確定拠出年金へ移換する際は、忘れないように気をつけましょう。
当該月のiDeCoの掛金を加入者にお返し(還付)する必要が生じた場合、手数料として還付金のうちから1,048円を差し引きます。
引用:iDeCo公式サイト
- 企業型確定拠出年金へ移換する時はiDeCoの資格喪失手続きを忘れないよう注意
1-2-2.iDeCoへの加入が認められている場合
転職先の企業型確定拠出年金の規約で、iDeCoへの加入が認められている場合は、そのままiDeCoへの積み立てを継続することも可能です。
その際、転職先に企業年金制度がない場合と同様に、契約している運営管理機関に「加入者登録事業所変更届」と転職先の「事業主証明書」を提出しましょう。
また、企業年金制度がない会社から転職した場合など、掛け金の上限が変わったことによる毎月の掛け金額の変更をしなければいけない場合は、「加入者登録事業所変更届」に記入する必要があります。
第1号加入者又は第3号加入者の方が厚生年金の適用事業所に就職した場合は、国民年金の種別が第1号被保険者又は第3号被保険者から第2号被保険者に変わりますので、「加入者被保険者種別変更届(第2号被保険者用) (K-010B) 」に、就職(転職)先が記入した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書 (K-101A)」を添付して、運営管理機関にご提出ください。
第2号加入者の方が厚生年金の適用事業所に転職した場合は、「加入者登録事業所変更届 (K-011)」に、転職先が記入した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書 (K-101A)」を添付して、運営管理機関にご提出ください。
引用:iDeCo公式サイト
1-2-3.iDeCoの掛金積み立てをやめて運用指図者になる
移換もせず、iDeCoへの積み立ての継続もせず、「資格喪失届」を提出して運用指図者になることもできます。
運用指図者になった場合のデメリットについては後ほど詳しく解説します。
1-3.公務員に転職
中には、公務員に転職するという方もいらっしゃるでしょう。
iDeCo加入者が公務員に転職したらどうなるのかということについても見ていきます。
1-3-1.法改正によって加入が可能になった
2017年1月の法改正によって、公務員の方もiDeCoに加入することが可能になりました。
公務員への転職だからといって特殊なことはなく、基本的には「継続する」か「運用指図者になる」かのどちらか選ぶことになります。
1-3-2.iDeCoの掛け金積み立てを継続する
まずは、iDeCoの掛け金積み立てを継続する場合についてです。
運営管理機関に「加入者登録事業所変更届」と転職先の「事業主証明書」を提出する必要があります。
掛け金の上限額の変更に伴って毎月の掛け金額を変更しなければいけない場合は、運営管理機関に提出する「加入者登録事業所変更届」に記入しなければいけません。
ちなみに、公務員の上限額は月1.2万円となっています。
1-3-3.iDeCoの掛け金積み立てをやめて運用指図者になる
iDeCoへの積み立てをやめて、運用指図者になることもできます。
運用指図者になった場合のデメリットについては後ほど詳しく解説します。

公務員も老後に向けた備えを!iDeCoのメリットと活用方法を解説
1-4.自営業に転職
サラリーマンから独立して自営業を始める方もいらっしゃるでしょう。
自営業の場合、iDeCoに加入するためには、国民年金保険料を納付している、農業者年金基金に加入していない、といった条件を満たす必要があります。
iDeCoに加入している人が自営業に転職する場合も、基本的な選択肢は同じです。
1-4-1.iDeCoの掛け金積み立てを継続する
運営管理機関に「加入者登録事業所変更届」と転職先の「事業主証明書」を提出しましょう。
また、国民年金の第1号被保険者になった場合は、「加入者被保険者種別変更届」の提出も必要です。
第2号加入者又は第3号加入者の方が国民年金の第1号被保険者(自営業者等)になられた場合は、「加入者被保険者種別変更届(第1号被保険者用) (K-010A)」を、運営管理機関にご提出ください。
引用:iDeCo公式サイト
自営業は毎月拠出できる金額の上限が最も大きい(月6.8万円)ので、上限額の変更に伴う掛金の変更はないでしょう。
1-4-2.iDeCoの掛金積み立てをやめて運用指図者になる
iDeCoへの積み立てをやめて運用指図者になる場合は、運営管理機関に「資格喪失届」を提出しましょう。
運用指図者になった場合のデメリットについては後ほど詳しく解説します。
1-5.専業主婦(夫)になる
専業主婦(夫)になることを「転職」とは言わないのかもしれませんが、退職して専業主婦(夫)になる方もいらっしゃると思いますので、見ておきましょう。
1-5-1.iDeCoの掛け金積み立てを継続する
2017年1月の法改正により、公務員と同様に専業主婦(夫)の方もiDeCoに加入することができるようになりました。
iDeCoの場合、運用期間中の運用益が非課税というメリットがあるので、専業主婦(夫)になった後でもiDeCoに継続して積み立てたいという方もいるでしょう。
継続する場合は、運営管理機関に「被保険者種別変更届」を提出してください。
第1号加入者又は第2号加入者の方が国民年金の第3号被保険者(専業主婦等)になられた場合は、「加入者被保険者種別変更届(第3号被保険者用) (K-010C)」を、運営管理機関にご提出ください。
引用:iDeCo公式サイト
1-5-2.運用指図者になる
運用指図者になる場合は、運営管理機関に「資格喪失届」を提出してください。
専業主婦(夫)に関してはこちらの記事で、専業主婦(夫)がiDeCoに加入するメリットやiDeCoをお得に活用する方法など解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。

専業主婦(夫)がiDeCoに加入するメリットやお得に活用する方法
2.運用指図者になるデメリット
ここまで、iDeCoに加入している人が転職するとどうなるのかということについて解説しました。
その中で、たびたび「運用指図者」というキーワードが出てきました。
運用指図者になると、新たに拠出することはできなくなりますが、これまで積み立ててきた掛け金の範囲で運用を続けることができます。
止むを得ない事情で拠出ができなくなってしまった場合には、運用指図者になると良いでしょう。
ただし、運用指図者になることはデメリットが大きいので注意が必要です。
ここでは、運用指図者になるデメリットについて解説します。
- 所得税や住民税の控除が受けられない
- 退職所得控除額の勤続年数に含まれない
- 口座の手数料は引かれ続ける
- 拠出を再開するとき改めて加入手続きが必要
2-1.所得税や住民税の控除が受けられない
iDeCoは拠出した金額に応じて所得税や住民税の控除を受けられるという仕組みになっているので、拠出をやめて運用指図者になると、所得税や住民税の控除が受けられなくなってしまいます。
所得税や住民税の控除は、iDeCoに加入することで得られる最も大きなメリットの1つであるため、非常にもったいないです。
2-2.退職所得控除の勤続年数に含まれない
iDeCoを年金としてではなく一時金として一括で受け取る場合、加入期間に応じて退職所得控除を受けることができますが、運用指図者になっている期間は、その際の計算に用いる加入期間(勤続年数)に含まれません。
つまり、税金を控除できる額が小さくなる場合があります。
2-3.口座の手数料は引かれ続ける
運用指図者になって新しく拠出しなくなったとしても、信託銀行に支払う手数料は引かれ続けます。
毎月66円なので、人によっては目をつぶれるような額でしょう。
しかし、iDeCoは原則として長期投資になるので積もり積もれば、そこそこの金額になります。
2-4.再び拠出を始めるなら改めて加入手続きが必要
一度運用指図者になってしまうと、二度と拠出を始めることができないのかというと、そうではありませんが、改めて加入申出の手続きをすることが必要になります。
2-5.運用指図者になるデメリットまとめ
このように、運用指図者になると発生するデメリットもあります。
経済的に拠出が苦しいのにも関わらず無理して拠出を続ける必要はありませんが、特に理由がないのであれば、運用指図者にはならず拠出を続けた方が長い目で見たときにお得でしょう。
- 運用指図者になるのはデメリットもあるので注意
3.企業型確定拠出年金に加入している人が転職する場合
ここまで、iDeCoに加入している人が転職する場合を解説してきましたが、ここからは、企業型確定拠出年金に加入している人が転職する場合について解説します。
企業型確定拠出年金に加入している人が転職した場合、資格喪失の手続きまでは元の会社が行ってくれますが、その後の転職先に応じて手続きが異なるので、それについて解説していきます。
3-1.企業型確定拠出年金がある会社に転職
企業型確定拠出年金がある会社に転職する場合、最も楽かもしれません。
手続きを転職先の会社が全て行ってくれます。
3-2.iDeCoに加入する場合
企業型確定拠出年金もその他の企業年金制度もない会社に転職した場合や、自営業や公務員等になった場合、iDeCoに加入して拠出を続けるのか、運用指図者になるのか、選択することになります。
この時、移換手続きをしないと非常に損をするので注意が必要です。
3-2-1.移換の手続きをしないと損をする
iDeCoに加入するにしても、運用指図者になるにしても、自分で運用管理機関を選んで、手続きを行わなければいけません。
資格喪失の手続きまでは元の会社が行ってくれるため、つい忘れてしまいがちですが、この手続きの期限は、加入資格を喪失してから(元の会社を退職してから)6か月以内という期限があります。
もしも、6か月以内に手続きをしなかった場合、「自動移換」されてしまいます。
これから詳しく説明しますが、とても損な状態になってしまうので気をつけましょう。
自動移換のデメリット①:資産の運用が一切できない
自動移換の場合、資産の運用がされず、今まで積み立てた資産が現金の状態でただ管理されるだけとなってしまいます。
自動移換のデメリット②:手数料だけがかかる
資産の運用はされないのに、管理手数料は引かれてしまいます。
自動移換のデメリット③:老齢給付金の受給開始が遅れる
自動移換中は老齢給付金を受け取るための加入者期間に算入されないので、場合によっては受給開始の時期が遅くなってしまうことがあります。
このように、手続きを忘れて自動移換になってしまうと非常に損なことになってしまうので、忘れないように注意しましょう。
企業型確定拠出年金の加入者資格の喪失、及び資産の移換の手続きが必要です。
企業型確定拠出年金に加入していた方が、企業型確定拠出年金のない企業等に転職したとき、役員就任等で企業型確定拠出年金の対象者でなくなったとき、退職して国民年金の第1号被保険者(自営業者等)又は第3号被保険者(専業主婦等)になったときは、企業型確定拠出年金の資産を個人型確定拠出年金(iDeCo)に移す手続きが必要です。手続きは、「運営管理機関一覧」に掲げた機関で取り扱います。選択した運営管理機関にご連絡いただき、「個人別管理資産移換依頼書 (K-003)」を、運営管理機関にご提出ください。
また、個人型確定拠出年金に加入し、掛金を拠出することができます。
個人型確定拠出年金に加入する場合は、併せて加入申出の手続きが必要です。
「個人型年金加入申出書」に所要の書類を添付して、運営管理機関にご提出ください。
個人型年金加入申出書(K-001)
引用:iDeCo公式サイト
第八十三条 企業型年金の資産管理機関は、次に掲げる者(当該企業型年金に個人別管理資産がある者に限る。)の個人別管理資産を連合会に移換するものとする。
一 当該企業型年金の企業型年金加入者であった者であって、その個人別管理資産が当該企業型年金加入者の資格を喪失した日が属する月の翌月から起算して六月以内に第五十四条の四、第八十条若しくは第八十二条又は中小企業退職金共済法第三十一条の三の規定により移換されなかったもの(当該企業型年金の企業型年金運用指図者及び次号に掲げる者を除く。)
二 当該企業型年金が終了した日において当該企業型年金の企業型年金加入者等であった者であって、その個人別管理資産が当該企業型年金が終了した日が属する月の翌月から起算して六月以内に第五十四条の四、第八十条若しくは第八十二条又は中小企業退職金共済法第三十一条の三の規定により移換されなかったもの
引用:確定拠出法第八十三条
- 自動移換にならないように注意
4.転職しても安心のiDeCo
iDeCoと転職に関することを解説してきました。
大雑把にまとめると、転職先が企業型確定拠出年金など、企業年金制度のある会社であれば、その会社の制度に加入すれば良いです。移換手続きを行えば、積み立てた掛け金がそのまま持ち運べます。
企業型確定拠出年金のある会社から転職して、企業型確定拠出年金の加入資格を喪失した場合は注意が必要で、自分で移換手続きを行わないと、自動移換されてしまい非常に損をします。
注意点はあるものの、きちんと手続きをすれば、確定拠出年金が転職によって不利になることはないということがお分かりいただけたかと思います。
5.iDeCoを始めるには
さてiDeCoは転職しても安心であるということを知って
「iDeCoを始めよう!」
という気持ちになった方もいれば、
企業型確定拠出年金のある会社を退職した、あるいは、その予定の方で、
「自動移換されたらマズい!」
と思った方もいるでしょう。
まずは運営管理機関の資料請求から始めてみましょう。