人生100年時代と言われる時代が近づくにつれ、老後資金を確保して老後に向けた安心を手に入れることが、ますます重要になってきました。
公的年金だけでは老後のお金が十分ではなくなってきているため、自分で老後に向けた対策をする必要があります。
そのような背景から
「iDeCoへの加入を検討している」
あるいは、
「既にiDeCoに加入している」
という方も多いのではないでしょうか。
iDeCoは老後のための資産づくりを後押ししてくれるとても良い制度です。
しかし、今この記事を見ている方の中には、
「iDeCoへの加入を検討しているけれど、途中で解約することはできるの?」
「iDeCoに加入しているが、解約したくなった。解約できる?」
といったことを思っている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、そのような疑問を解消するべく、iDeCoの解約について解説します。
もくじ
1.iDeCoは途中解約できません!
結論から申し上げると、iDeCoは原則として60歳になるまで解約ができない制度になっています。
iDeCoは、「老後のための」資産づくりを後押しするための制度なので、途中解約ができないようになっているのです。
今まで積み立ててきたお金を、老後を迎える前(60歳になる前)に引き出したいと思っても、引き出すことはできません。
しかし、ただこれだけのことをお伝えしても「解約したい」と思っている方にとっては何の価値にもならないかと思います。
そこで、既にiDeCoに加入していて、解約したくなってしまった方には、できる限りの対処法をご紹介します。
また、これからiDeCoに加入するかどうか検討している方の中で、
「途中解約できないなら加入するのをやめとこうかな」
と思った方がいらっしゃったら、少し待ってください。
iDeCoの加入を検討している方に向けては、「加入したのは良いものの途中解約したくなってしまった」ということができる限り起こらないような方法をご紹介します。
その内容を踏まえて、iDeCoへ加入するかどうかを判断していただければ幸いです。
2.原因別対処法(途中解約したくなったら)
それでは、解約したくなったときの「できる限りの対策」を原因別に見ていきましょう。
2-1.毎月の拠出が苦しい
解約したくなる原因の1つとして、「毎月の拠出が苦しい」というのがあるのではないでしょうか。
自営業の場合、毎月の掛け金の上限が6.8万円となっていて、かなり大きな額の拠出が可能です。
加入時は張り切って毎月6.8万円の拠出額に設定したものの、経済状況が変わってきて拠出が負担になってくることもあるでしょう。
そのような場合は、2つ対処法があります。
1つは「掛け金を減額する」、もう1つは「拠出を停止して運用指図者になる」です。
それぞれについて見ていきましょう。
2-1-1.掛け金を減額する
掛け金の減額は、加入している運営管理機関(金融機関)に「加入者掛金額変更届」を提出することでできます。
年に1回、1,000円刻みで変更することが可能です。
ご自身の経済状況に合わせて拠出額を設定し直しましょう。
手続きの詳細はiDeCo公式サイトをご覧ください。
2-1-2.拠出を停止して運用指図者になる
拠出を停止して運用指図者になることもできます。
iDeCoの拠出額は最低でも月5,000円ですので、「月5,000円の拠出も苦しい」という場合には、運用指図者になるという選択をすると良いでしょう。
しかし、月5,000円の拠出が苦しいということではないのなら、この対処法はあまりオススメできません。
なぜならデメリットが大きいからです。
- 所得税・住民税の控除が受けられない
- 退職所得控除の勤続年数に含まれない
- 口座の手数料は引かれ続ける
まず運用指図者になってしまうと、所得税や住民税の控除が受けられなくなってしまいます。
所得税や住民税の控除が目的でiDeCoに加入したのだとすれば本末転倒です。
次に、運用指図者になっている間は、退職所得控除額の勤続年数に含まれません。
今まで積み立ててきた資産を一括で受け取る時に控除できる税金額が小さくなってしまう可能性があります。
さらにその上で、運用指図者になっている間も口座の手数料は引かれ続けてしまいます。
このように「拠出が苦しくなったから運用指図者になる」という選択はデメリットが大きいです。
「月5,000円の拠出も苦しい」という止むを得ない場合は仕方がありませんが、できるだけ無理のない範囲で拠出額を下げてでも拠出し続けた方が良いでしょう。
- 掛け金の拠出が苦しいときは金額を変更する
- それでも苦しいなら運用指図者になる
2-2.元本割れした
次に「元本割れしたから解約したい」というケースについて対処法を解説します。
2-2-1.目先の浮き沈みに一喜一憂しない
iDeCoは老後に向けて長い期間をかけて行う積み立て投資です。
ということは「ドルコスト平均法」という考え方を理解しておく必要があります。
ドルコスト平均法とは、相場の浮き沈みに関わらず定期的に一定の金額で購入し続けることで、平均購入コストを比較的安くするというものです。
「ドルコスト平均法」という考え方を知らない方のために念のため説明しておくと、相場に関わらず毎月一定額で購入することで、相場が下がっているときは多めに買って、相場が上がっているときは少なめに買うことになるので、全体として平均購入額が安くなるということです。
今、相場が下がっていても長期的に見れば底をついてから上がるということが前提の考え方にはなりますが、だからこそ目先の浮き沈みに一喜一憂せず、落ち着いて拠出を続けることが重要になります。
2-2-2.運用内容を見直す
「元本割れしてもドルコスト平均法の考え方に則って落ち着きましょう」と解説しましたが、そうは言っても「許容範囲を超えた元本割れの仕方をしている。だから解約したい。」というケースもあるかと思います。
そのような場合でも解約はできませんので、運用内容を見直すことを検討しましょう。
iDeCoで運用内容を変更する方法は2つあります。
1つは「配分変更」でもう1つは「スイッチング」です。
「配分変更」は、加入した時に届け出た毎回の買付内容の比率を変更することを言います。
例えば、毎月1.2万円の拠出をしていて、元本確保型の商品と投資信託をそれぞれ半分ずつ(元本確保型を6,000円、投資信託を6,000円)購入していたとします。
これを、次回から元本確保型を30%、投資信託を70%(元本確保型を3,600円、投資信託を8,400円)購入するという割合に変更するという具合です。
一方、「スイッチング」は既に積み立ててある資産の投資配分を変更することです。
ある商品の一部または全部を売却して、売却代金で他の商品を購入し、資産配分を変更します。
つまり、配分変更はこれから購入する分に対して変更を加えるのに対して、スイッチングは既に購入した分に対して変更を加える、というイメージを持っていただけるとわかりやすいです。
スイッチングをする上で、注意しなくてはいけないことが2点あります。
1つは商品によって「信託財産留保額」というコストが差し引かれてしまうことがある点です。
もう1つの注意点は、金融機関によってはスイッチングできる回数に制限を設けていることがある点です。
ただし最低でも3か月に1回はスイッチングを認められるように法律で義務づけられています。
2-2-3.拠出額を大きく設定する
拠出額を大きくするというのも元本割れの可能性を下げる方法の1つです。
というのも、iDeCoでは手数料が少なくとも毎月171円、年間にして2,052円の手数料がかかってしまいます。
ということは、利回り0%で運用しても元本割れしてしまうということです。これがいわゆる手数料負けというものです。
仮に、最低拠出限度額である月5,000円の拠出だとしたら、年3.4%以上の利回りで運用しなければ元本割れしてしまいます。
ここで、月1.2万円の拠出をすれば、年1.4%以上の利回りで運用すれば元本割れを回避できるのです。
このように、拠出額をできる限り大きく設定すれば、「手数料負け」の可能性を下げることが可能です。
ただし、無理な金額設定をすると生活苦に陥ってしまうので、ご自身の経済状況とも相談しながら設定する必要があります。
ここで無理をしてしまうと、今度は「掛け金の拠出が苦しい」という理由で解約したくなってしまうので本末転倒です。
元本割れしたときの考え方や対処法についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。

iDeCoで元本割れしたときの考え方と可能性を下げる方法を解説
3.例外的に途中解約できる場合もあるが…
例外的に途中解約できるケースもありますが、本当に特殊なケースです。
どのような場合に途中解約できるのか見ていきましょう。
3-1.加入者が死亡した
万が一加入者が亡くなってしまった場合、iDeCoで積み立ててきた資産は遺族が「死亡一時金」として全て受け取ることができます。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者・運用指図者又は自動移換者(企業型確定拠出年金の資格喪失後、6ヵ月間、手続きをとらず、年金資産が特定運営管理機関に移換された者)の方が亡くなられた場合、ご遺族の方が死亡一時金を受給することができます。
引用:iDeCo公式サイト
受け取るためには死亡後5年以内に運営管理機関に給付の申請をする必要があります。
もし5年以内に申請をしなければ相続人がいない相続財産として国庫帰属となりますので、万が一、iDeCo加入者の相続人という立場になった場合は、申請を忘れないようにしましょう。
第四十一条 死亡一時金を受けることができる遺族は、次に掲げる者とする。ただし、死亡した者が、死亡する前に、配偶者(届出をしていないが、死亡した者の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下この条において同じ。)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹のうちから死亡一時金を受ける者を指定してその旨を企業型記録関連運営管理機関等に対して表示したときは、その表示したところによるものとする。
一 配偶者
二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって死亡した者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していたもの
三 前号に掲げる者のほか、死亡した者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していた親族
四 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって第二号に該当しないもの
2 前項本文の場合において、死亡一時金を受けることができる遺族の順位は、同項各号の順位により、同項第二号及び第四号に掲げる者のうちにあっては同号に掲げる順位による。この場合において、父母については養父母、実父母の順とし、祖父母については養父母の養父母、養父母の実父母、実父母の養父母、実父母の実父母の順とする。
3 前項の規定により死亡一時金を受けることができる遺族に同順位者が二人以上あるときは、死亡一時金は、その人数によって等分して支給する。
4 死亡一時金を受けることができる遺族がないときは、死亡した者の個人別管理資産額に相当する金銭は、死亡した者の相続財産とみなす。
5 死亡一時金を受けることができる者によるその権利の裁定の請求が死亡した者の死亡の後五年間ないときは、死亡一時金を受けることができる遺族はないものとみなして、前項の規定を適用する。
引用:確定拠出年金法第四十一条
3-2.加入者が高度障がい者になった
加入者が70歳を迎える前に高度障がい者になった場合も、運営管理機関に給付の申請をすることで「障害給付金」として受け取ることができます。
ただし、70歳に到達する前に傷病によって一定以上の障害状態になった加入者等の方が、傷病が続いた状態で一定期間(1年6ヵ月)を経過した場合には、障害給付金を受給できます。
引用:iDeCo公式サイト
3-3.加入者が一定の条件を満たしている
加入者が一定の条件を満たしている場合も「脱退一時金」として資産を受け取ることができます。
ただし、条件を満たすのはかなり厳しいでしょう。
具体的には以下のような条件を満たしている必要があります。
国民年金の第1号被保険者のうち、国民年金保険料の全額免除又は一部免除、もしくは納付猶予を受けている方
確定拠出年金の障害給付金の受給権者ではないこと
通算拠出期間が3年以下、又は個人別管理資産が25万円以下であること
最後に企業型確定拠出年金又は個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入者の資格を喪失した日から2年以内であること
企業型確定拠出年金の資格喪失時に脱退一時金を受給していないこと
※1.の要件は、日本国の国民年金保険料の免除を受けていることが必要であり、外国籍の方が帰国後に国民年金の加入資格がなくなった場合は、これに該当しません
引用:iDeCo公式サイト
このように、iDeCoを途中解約するのはかなり特殊なケースでなければできません。
解約したい理由が、
「掛け金の拠出が難しい」
「元本割れした」
といったことであれば、この記事で紹介したことを実践してみると良いでしょう。
4.加入する前に目的をはっきりさせよう!
さて、iDeCoを途中解約したくなってしまった方に向けて「できる限りの対処法」を紹介しました。
ここからは、これからiDeCoへの加入を検討している方に向けて
「iDeCoに加入したのは良いものの途中で解約したくなった」
ということができる限り起こらない方法を紹介します。
その方法とは、ずばり、あなたがiDeCoに加入する目的を明確にすることです。
iDeCoを活用する目的を明確にしておくことで、状況の変化による気の迷いをなくすことができます。
あなたがiDeCoに加入する目的は何ですか?
4-1.節税効果を得るため
あなたがiDeCoに加入する目的は、節税効果を得るためでしょうか。
iDeCoには節税効果があり、積み立て時には所得税や住民税の控除が受けられます。
さらに、運用中の運用益が非課税、また、受け取る時には「公的年金等控除」あるいは「退職所得控除」が受けられます。
節税が目的であることを明確にしておけば、これらの恩恵を受けられるうちは「途中解約しよう」と思わないでしょう。
元本割れしてしまった場合も、落ち着いて「そもそもの目的は節税にあったはず」と自分に言い聞かせましょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)で節税になる仕組みをわかりやすく解説!
4-2.長期投資の強制力として
あなたがiDeCoに加入する目的は、「長期投資の強制力として」でしょうか。
この記事で何度も申し上げてきた通り、iDeCoは途中解約することができません。
これは長期投資をするための強制力になります。
「老後資金のためにコツコツ貯金を始めたけれど、魔が差して欲しいものを買うために貯金を崩してしまう」
このような事態を防いでくれます。
そして、それがiDeCoに加入する目的であると強く思っておけば、途中で解約しようという考えに至る可能性は下がるでしょう。
- iDeCoに加入する目的を明確にしよう!
5.iDeCoの始め方
さて、既にiDeCoに加入している方に向けて、途中解約したくなってしまった場合のできる限りの対処法を紹介しました。
また、これからiDeCoに加入しようと思っている方に向けては、途中解約したくならないために「加入する前に目的を明確にしよう」ということを申し上げました。
iDeCoを始めようと思っている方が
「しっかりと目的を明確にした上でiDeCoを始めよう!」
という気持ちになっていただけたら幸いです。
そして、
「しっかりと目的を明確にしました!iDeCoを始めたいです!」
という方がいらっしゃったら、運営管理機関(金融機関)に資料を請求してみましょう。