人生100年時代になるにつれて、老後資金を確保して老後に向けた安心を手に入れることが、ますます重要になってきました。
公的年金だけでは十分でなくなってきているため、自分で対策をしておく必要があります。
こうした背景から、つみたてNISAやiDeCoといった制度の活用を促す動きが強まっています。
この記事では、そういった制度の中でもiDeCoについて焦点を当てて見ていきましょう。
iDeCoとは、毎月一定額の金額を積み立て、運用し、老後に年金または一時金と言う形で受け取ることができる制度のことです。
このiDeCoには、加入することで得られるメリットがいくつかあります。
「老後のための資産形成が不安だ」
「iDeCoに加入しようと考えているが、メリットがあるのかよくわからない」
このような悩み、疑問をお持ちの方に向けて、iDeCoに加入することで得られるメリットについて解説します。
老後に向けた準備のお役に立つことができれば幸いです。
1.iDeCoに加入するメリット
では早速、iDeCoに加入するとどのようなメリットがあるのか解説していきます。
1-1.iDeCoの最大のメリットは節税!
iDeCoに加入する1番のメリットは、なんといっても節税効果があるということです。
なんと、「積み立て時」「運用期間」「受け取り時」の3つのタイミングにおいて節税効果があります。
一体どのような仕組みで、どれほどの節税効果が生まれるのでしょうか?
iDeCoの節税効果について詳しく解説していきます。
1-1-1.所得税や住民税が控除される
iDeCoに加入して毎月積み立てることで、所得税や住民税を控除できます。
具体的な例を用いて、どれほどの節税効果があるのか見ていきましょう。
これから見ていく例では、iDeCoに毎月積み立てることで、なんと年間18万円も節税できます。(この数字は所得や毎月の掛金によって変わります。)
それでは、まずは所得税の計算方法について確認しましょう。
所得税は、「課税される所得金額」に応じて、「税率」と「控除額」が決められていて、それらから所得税の金額が算出されます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
具体的な例を出して計算すると、例えば、課税される所得金額が400万円の場合、税率は20%で、控除額は427,500円なので、
400万円 × 20% – 427,500円 = 372,500円
という式により、所得税は372,500円になります。
さて、ここからが本題です。
iDeCoに加入している人は、拠出した金額分だけ「課税される所得金額」から差引くことができます。
課税される所得金額が400万円で、毎月の拠出額が5万円(つまり年間の拠出額が60万円)の方の場合、次のような式で所得税が計算されます。
(400万円 – 60万円)× 20% – 427,500円 = 252,500円
これは、iDeCoに加入していない場合に比べて12万円もお得です。
もちろん、iDeCoに拠出している分、手元にある現金は少なくなりますが、
「将来に向けての投資ができてなおかつ税金も軽くなった」
と考えるとかなりお得であることがわかります。
住民税についても同様です。
課税される所得金額が400万円で、住民税の税率が10%、住民税均等割を5,000円として計算すると、
iDeCoに加入していない場合、
400万円 × 10% + 5,000円 = 405,000円
iDeCoに加入して毎月5万円(年間60万円)拠出している場合、
(400万円 – 60万円)× 10% + 5,000円 = 34,5000円
ということで、6万円もお得です。
所得税と住民税、合わせて18万円お得になりました。
課税所得400万円の人が、老後に向けて年間60万円貯金するのであれば、ただ貯金するよりも、iDeCoに積み立てた方が所得税と住民税だけで18万円もお得になるということです。
もちろん、ご自身の所得や拠出金額に応じて、具体的な数字は変わってきます。
ぜひ同様にして、ご自身がiDeCoに加入した場合、どれくらい所得税や住民税が安くなるのか計算してみましょう。
iDeCoに加入していない場合
課税所得 | 所得税額 | 住民税額 | 合計納税額 |
400万円 | 372,500円 | 405,000円 | 777,500円 |
iDeCoに加入している場合(毎月5万円拠出)
課税所得 | 所得税額 | 住民税額 | 合計納税額 |
340万円 | 252,500円 | 345,000円 | 597,500円 |
1-1-2.運用中の利益にかかる税金が非課税
iDeCoの節税効果は所得税や住民税においてだけではありません。
運用中の利益にかかる税金が非課税になるというメリットもあるのです。
通常の運用だと、運用益のおよそ20%が課税されてしまいます。
もし、20年間、毎月50,000円を拠出し続け、年率3%で運用し続けたら、441.5万円の運用益が生まれます。(*あくまで例であって、iDeCoに加入すれば必ず年率3%で運用できるということではありません。)
通常の運用の場合、運用益のおよそ20%が課税されるので、441.5万円の運用益のうち、およそ88万円が課税対象となります。
iDeCoに加入すればこれが非課税になるのでかなりお得です。
1-1-3.老後の受け取り時も税金が控除される
老後に受け取る際に税金が控除されるというメリットもあります。
年金として受け取る場合には「公的年金等控除」が適用されます。
以下の表に従って計算されます。
公的年金等に係る雑所得の速算表(平成17年分から令和元年分まで)
年金受給者の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 割合 | 控除額 |
65歳未満 | 70万円まで | 所得金額はゼロ | |
70万1円から129万9999円 | 100% | 70万円 | |
130万円から409万9999円 | 75% | 37万5000円 | |
410万円から769万9999円 | 85% | 78万5000円 | |
770万円以上 | 95% | 155万5000円 | |
65歳以上 | 120万円まで | 所得金額はゼロ | |
120万1円から329万9999円 | 100% | 120万円 | |
330万円から409万9999円 | 75% | 37万5000円 | |
410万円から769万9999円 | 85% | 78万5000円 | |
770万円以上 | 95% | 155万5000円 |
公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下 | |||
年金受給者の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 割合 | 控除額 |
65歳未満 | 60万円まで | 所得金額はゼロ | |
60万1円から129万9,999円 | 100% | 60万円 | |
130万円から409万9,999円 | 75% | 27万5,000円 | |
410万円から769万9,999円 | 85% | 68万5,000円 | |
770万円から999万9,999円 | 95% | 145万5,000円 | |
1,000万円以上 | 100% | 195万5,000円 | |
65歳以上 | 110万円まで | 所得金額はゼロ | |
110万1円から329万9,999円 | 100% | 110万円 | |
330万円から409万9,999円 | 75% | 27万5,000円 | |
410万円から769万9,999円 | 85% | 68万5,000円 | |
770万円から999万9,999円 | 95% | 145万5,000円 | |
1,000万円 | 100% | 195万5,000円 |
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円超2,000万円以下 | |||
年金受給者の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 割合 | 控除額 |
65歳未満 | 50万円まで | 所得金額はゼロ | |
50万1円から129万9,999円 | 100% | 50万円 | |
130万円から409万9,999円 | 75% | 17万5,000円 | |
410万円から769万9,999円 | 85% | 58万5,000円 | |
770万円から999万9,999円 | 95% | 135万5,000円 | |
1,000万円以上 | 100% | 185万5,000円 | |
65歳以上 | 100万円まで | 所得金額はゼロ | |
100万1円から329万9,999円 | 100% | 100万円 | |
330万円から409万9,999円 | 75% | 17万5,000円 | |
410万円から769万9,999円 | 85% | 58万5,000円 | |
770万円から999万9,999円 | 95% | 135万5,000円 | |
1,000万円 | 100% | 185万5,000円 |
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が2,000万円超 | |||
年金受給者の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 割合 | 控除額 |
65歳未満 | 40万円まで | 所得金額はゼロ | |
40万1円から129万9,999円 | 100% | 40万円 | |
130万円から409万9,999円 | 75% | 7万5,000円 | |
410万円から769万9,999円 | 85% | 48万5,000円 | |
770万円から999万9,999円 | 95% | 125万5,000円 | |
1,000万円以上 | 100% | 175万5,000円 | |
65歳以上 | 90万円まで | 所得金額はゼロ | |
90万1円から329万9,999円 | 100% | 90万円 | |
330万円から409万9,999円 | 75% | 7万5,000円 | |
410万円から769万9,999円 | 85% | 48万5,000円 | |
770万円から999万9,999円 | 95% | 125万5,000円 | |
1,000万円 | 100% | 175万5,000円 |
また、一時金として一度に全額受け取る場合には「退職所得控除」が適用されます。
1-1-4.iDeCoの節税効果まとめ
ここまで、iDeCoに加入する大きなメリットの節税効果について解説しましたが、しばしば「iDeCoの節税効果があるというのは嘘である」「iDeCoの節税効果に騙されてはいけない」といった意見を目にすることがあります。
これに関しては、こちらの記事において詳しく解説していますので、iDeCoには本当に節税効果があるのか、不安に思う方はぜひご覧ください。

iDeCoで節税できるというのは嘘?!具体的な例を使って検証してみた
1-2.運営管理機関によっては金融商品の手数料が安い
iDeCoの最大のメリットとも言える節税効果について解説していきましたが、実は、iDeCoには節税効果以外にもメリットがあります。
それは「選択する運営管理機関によっては金融商品の手数料が安くなる」ということです。
通常、投資信託を購入すると手数料がかかります。
この手数料を信託報酬というのですが、iDeCoで購入する場合は手数料が安くなる場合があります。
どのくらい安くなるのかは、どの運営管理機関を選ぶのかにもよるので、手数料にも注目しながら運営管理機関を選びましょう。
1-3.転職時も積立金を全額持ち運べる
ここまで、「節税効果が高い」「手数料が安い」といったメリットを見てきました。
では、もしも転職をすることになったらどうなるのでしょうか?
総務省の労働力調査によれば、転職者数は年々増えており、2019年には過去最多の351万人が転職をしています。
転職をすることは珍しいことではなくなってきているのです。
そこでiDeCoについても、転職する場合のことを考えておく必要があります。
結論から言うと、「ポータビリティ」といって、転職や離職をした場合でも、それまで積み立ててきた資産を全額持ち運ぶことができるのです。
これもiDeCoのメリットの1つです。
もう少し詳しく見ていきましょう。
iDeCoに加入している人が転職をする場合、大きく分けて2つの可能性を考えます。
1つは、転職先に企業年金制度がある場合です。
もう1つは、それ以外、つまり、転職先に企業年金制度がない、独立して自営業者になる、公務員に転職する、専業主婦(夫)になる、といったケースです。
1-3-1.転職先に企業年金制度がある場合
転職先に企業年金制度がある場合、
「企業型確定拠出年金へ移換する」「iDeCoの掛金積み立てを継続する」「運用指図者になる」のいずれかから選ぶことができます。
転職先の企業型確定拠出年金の規約でiDeCoへの加入が認められていれば、引き続きiDeCoへの積み立てが認められますし、そうでなくても「移換」という手続きを行って企業型確定拠出年金にまとめることができます。
また、運用指図者とは、積み立てをやめて、運用の指図のみを行う人のことです。
運用指図者になってしまうと、「所得税や住民税の控除」や「受取時の税金の控除」と言ったメリットは享受できなくなってしまうので注意が必要になります。
1-3-2.「それ以外」の場合
「それ以外」の場合、つまり、企業年金制度のない会社に転職したり、自営業になったり、公務員になったり、専業主婦(夫)になったり等の場合、「iDeCoの掛金積み立てを継続する」か「運用指図者になる」かのどちらかを選ぶことができます。
以上まとめると、転職しても今まで積み立ててきた金額は持ち運んで運用することができるため、転職が増えてきている現在でも安心することができます。
1-4.iDeCoのメリットまとめ
iDeCoのメリットを解説しました。
iDeCoには「節税効果がある」「運営管理機関によっては信託報酬が安い」「転職時も積立金を全額持ち運べる」といったメリットがあります。
特に、節税効果に関しては絶大で「これがあるからiDeCoに加入するべし」と言っても過言ではないかもしれません。
iDeCoに加入するとお得に老後に向けた資産形成ができるのです。
- 節税効果がある
- 手数料が安い
- 転職しても持ち運べる
2.iDeCoのデメリット
ここまで、iDeCoの良いところばかりを見てきましたが、「そんなうまい話ばかりではないだろう」と思う方もいらっしゃるかと思います。
何かを始めるときに、デメリットやリスクについても考えることはとても重要なことです。
そこで、iDeCoのデメリットについても見ていきましょう。
2-1.60歳まで引き出すことができない
iDeCoで積み立てた資金は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。
そのため、急に手元のお金が必要になったという場合でもiDeCoのお金を使うことはできません。
iDeCoとは別に緊急用のお金も確保しておく必要があるので注意しておきましょう。
ただし、この「60歳まで引き出せない」というルールが必ずしもデメリットなのかというと、そうではなく、長期投資が苦手な人にとっては強制的に長期投資をできるという点においてメリットにもなり得ます。
2-2.口座開設費用や口座管理料がかかる
iDeCoは口座開設時に2,829円の加入時手数料がかかります。
さらに運用期間中、毎月171円の口座管理料がかかります。
内訳としては、国民年金基金連合会に払うお金が毎月105円、信託銀行に払うお金が毎月66円となっています。
それとは別に、運営管理機関によっては、別途支払う口座管理料がかかります。
運営管理機関に支払う口座管理料の金額は金融機関により異なります。口座管理手数料が0円の運営管理機関もあります。
これについても、デメリットとして紹介したものの、節税効果によって得られるメリットと比べれば微々たる出費だという人が多いでしょう。
2-3.受け取り方によっては税金がかかることもある
iDeCoのメリットは「老後の受取時も税金が控除される」と紹介しましたが、受け取り方によっては税金がかかってしまうので注意が必要です。
まず、年金で受け取る場合、受け取った公的年金との合計金額が「公的年金等控除額」を超える場合、課税対象になってしまいます。
また、一時金として受け取る場合、退職金などを受け取っていて「退職所得控除額」を超える場合、課税対象となってしまいます。
どちらの受け取り方をすれば税金がかからずに済むのか確かめてから受け取り方を選びましょう。
2-4.iDeCoのデメリットまとめ
iDeCoのデメリットを紹介しました。
iDeCoには「60歳になるまで引き出せない」「口座開設費用や口座管理料がかかる」「受け取り方によっては税金がかかることもある」といったデメリットも存在します。
しかしこれらは、
「見方を変えればメリットになり得る」
「得られるメリットと比べれは大したデメリットではない」
とも言えます。
デメリットやリスクについても知った上で、iDeCoという制度を有効に活用してください。
3.iDeCoを始めるには
さて、iDeCoのメリット・デメリットを知ったところで、
「iDeCoを始めたくなった」
「iDeCoについてもっと詳しく知りたい」
という方もいらっしゃるでしょう。
まずは、証券会社や銀行から資料請求をしてみましょう!